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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2478号 判決

控訴人 共栄興業株式会社

右代表者代表取締役 星山金市

右訴訟代理人弁護士 原清

同 本郷修

被控訴人 三菱建設株式会社

右代表者代表取締役 天辰登吉郎

右訴訟代理人弁護士 中川久義

同 秋廣道郎

同 平野和己

主文

一  原判決中控訴人敗訴の部分を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し

(一)  金一二万円

(二)  昭和五八年二月三日限り金一二万円

(三)  同五九年二月三日限り金一二万円

(四)  同六〇年二月三日限り金一二万円

(五)  同六一年二月三日限り金一二万円

(六)  昭和五六年五月一日以降右(一)の金一二万円に対する、右(二)ないし(五)の各支払期限の翌日以降右各金員に対する、各その支払ずみに至るまで年六分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審ともこれを六分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

三  本判決は、右一の1の(一)に関する部分(同(六)の附帯請求を含む。)に限り、仮に執行することができる。

理由

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決五枚目裏九行目「後順次」を「後順位の請負契約の」と訂正する。

2  同六枚目表七行目「原告」の次に「が」を加える。

3  同一〇枚目裏一行目及び一一枚目表四行目に「対等額」とあるのをそれぞれ「対当額」と訂正する。

(控訴人の当審における主張)

一  仮に控訴人の主張する取引上の慣行が下請人倒産後には適用されないとしても、京葉道路星久喜ベノト工事における機械使用料金三〇〇万円については、被控訴人は、右工事代金の精算に際し、控訴人に対してその支払義務を認めたうえで右工事代金と相殺処理することの猶予を要請し、将来、控訴人との間の請負工事代金と相殺されることを承諾した。

二  控訴人は、大阪地方裁判所に対し和議の申立てをし、同裁判所は、昭和五五年一二月一九日、同裁判所同年(コ)第三八号事件として、左記和議条件をもってする和議を認可し、同決定は確定した。

和議条件

1  和議債務者は、和議債権者に対し、昭和五六年四月三〇日限り和議債権元本額の八パーセント宛を支払う。

2  和議債務者は、和議債権者に対し、和議認可決定確定の日から二年目を第二回とし、爾後一年毎に第五回までそれぞれ各和議債権元本額の八パーセント宛を支払う。

(第1、2項合計四〇パーセント宛)

3  和議債権者は、爾余の和議債権元本及び利息、損害金は免除する。

4  和議債務者代表者星山金市は、第1項及び第2項の支払債務につき連帯保証する。

よって、仮に控訴人が被控訴人に対して何らかの債務を負うとしても、当該債務は右和議条件により免除若しくは支払期限の猶予がなされた。

(控訴人の右主張に対する被控訴人の答弁)

一は否認する。二のうち控訴人主張の和議が認可され、確定したことは認めるが、その効果は争う。本件訴訟は和議債権の存否、範囲を確定するためのものであり、和議債権は確定して初めて和議条件に従って変更されるのであって、和議による免除若しくは支払猶予は抗弁とはならないから、この点に関する控訴人の主張は失当である。

(当審における証拠関係)《省略》

一  請求原因の一の事実(新平田橋工事に関する被控訴人の主張事実)は、当事者間に争いがない。

二  被控訴人は、控訴人(注文者)との間に城之内工事の請負契約を締結したと主張し、控訴人は、これと争い、控訴人(注文者)は、協立工業(請負人)との間で右請負契約を締結したと主張するので、この点について考える。

1  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 控訴人(注文者)は、昭和四九年六月頃から被控訴人(請負人)との間に約一〇回工事請負契約を結んだ。

(二) 右請負契約の中には、次の工事が含まれている。すなわち

(1) 京葉道路星久喜べノト工事(以下「星久喜工事」という。)。これは、訴外大成建設が元請人で、その基礎の工事部分を控訴人が下請けし、次に被控訴人が、更に協立工業が順次下請けしたもので、控訴人と被控訴人間の請負契約は、控訴人が被控訴人に注文書を発し、被控訴人が控訴人に請書を差し入れる形式で結ばれていたところ、被控訴人が控訴人に昭和四九年一〇月一二日付請書を差し入れ、同月一六日着工同五〇年二月一五日竣工の約であった。

(2) 東北自動車道金ヶ崎工区ベノト工事(以下「金ヶ崎工事」という。)。これは、訴外株式会社福田組が元請人で、前同様その基礎の工事部分を控訴人が下請けし、次に被控訴人が、更に協立工業が順次下請けしたもので、控訴人と被控訴人間の請負契約については、被控訴人が控訴人に昭和五〇年五月一二日付請書を差し入れ、着工及び竣工期限は現物指示通りとされていた。

(3) 新平田橋工事。これは訴外大林組が元請人で、前同様控訴人が下請けし、次に被控訴人が、更に協立工業が順次下請けしたもので、控訴人と被控訴人間の請負契約は、昭和五〇年六月六日締結され(右契約締結の事実は、当事者間に争いがない。)、その第一期工事は、すでに同年五月着工されており、第二期工事は同年一一月から第三期工事は同五一年一一月から着工の約で、工事の期限は、それぞれ着工の翌月とされていた。

(三) 協立工業は、昭和五一年四月五日倒産した。

2  《証拠省略》を総合すれば、前記星久喜工事において、予定より大巾に遅延した工事の進捗を図るため、控訴会社専務取締役訴外孫田達雄(以下「孫田」という。)、被控訴会社大阪総合事務所長訴外坂本将吾(以下「坂本所長」という。)及び協立工業代表者訴外池忠重(以下「池」という。)の三者が話し合った結果、控訴人が、その所有する掘削機械一台を協立工業に貸与し、同会社が右機械を使って工事を進めること、右機械の使用料は、一日金五万円の約で、昭和四九年一一月二五日から同五〇年三月一七日まで使用されたが、右三者の合意により、右使用料を金三〇〇万円に減額したこと、控訴人は、被控訴人に対し、右使用料を星久喜工事の毎月の出来高払いから差引いて精算するよう申し出たが、右工事の出来高が少なかったこと、協立工業が資金面において苦しかったこと等の諸事情により、被控訴人において、右精算の繰延べを希望し、更に右星久喜工事の代金の支払が済むようになると、次の工事の代金と精算することを希望するという状況で、ついに右精算が実行されないまま今日に及んだことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  《証拠省略》を総合すれば、前記金ヶ崎工事が完了した後、協立工業の下請業者が、その使用した労務者に対し賃金を支払わなかったため、右労務者が、その支払を求めて、右工事の発注主である日本道路公団や元請人である株式会社福田組へ押しかけたこと、そこで、右福田組は、控訴人を強く叱責して、速やかに解決するよう指示し、更に、控訴人は、被控訴人に対しその解決方を依頼したこと、しかし被控訴人は右解決を図らず、控訴人は、再び日本道路公団から叱責を受けるに至り、このまま推移するときは、将来の受注も危ぶまれ死活問題に連なることを憂慮し、昭和五〇年八月二一日右賃金として金四〇〇万円を労務者に支払ったこと、その後始末として、控訴人が、協立工業振出の手形を受領した(その後右手形のうち金三〇万円は決済されたが、その余は、協立工業の倒産により不渡りとなった。)ことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

4  《証拠省略》によれば、城之内工事は、元請人が、訴外鹿島建設株式会社であって、その基礎工事を訴外阪神土木工業株式会社が下請けし、その一部を、更に控訴人が下請けしたものであること、更にその一部の工事を協立工業が、昭和五一年二月中旬から、右会社が倒産した同年四月五日頃まで施工し、その出来高は、金一二七八万三二〇〇円であったことが認められるが、《証拠省略》により、右施工については、協立工業が控訴人から下請けしたのであって、先ず被控訴人が控訴人から下請けし、次いで協立工業が被控訴人から下請けしたのではないと認めるのが相当である。けだし、右証言は、「被控訴人は、大手の会社であり、信頼することができるものとして、従来、控訴人は被控訴人に下請けを頼んできたが、期待に反し、被控訴人は、施工監理や安全管理が十分でなく、被控訴人に下請けをしてもらうメリットもないので、城之内工事については、控訴会社の孫田は、池と交渉して、単価を一メートル当り金一万一六〇〇円とするなど契約条件を定め、協立工業と請負契約を締結した。右交渉には、前記坂本所長ら被控訴人側の者は、何ら関与しなかった。ことに、被控訴人が、業界の取引慣行に反して、機械使用料と請負代金との相殺を延引して遂にこれを行わなかったこと、被控訴人が、下請業者の労務賃金の不払の問題を適切に処理しなかったため、控訴人が、発注主や元請人から叱責され、その信用を失い死活問題にもなりかねないことになり、控訴人において右賃金を支払わざるを得なかったことがあったので、城之内工事には被控訴人を乗せないことにした。」というのであるが、前叙認定の事実は、十分右証言を裏付けるに足り、控訴人が、被控訴人との請負契約を回避するに至った理由として述べるところは、首肯するに値すると考えられるからである。

加えるに、《証拠省略》を総合すれば、従来、約一〇回に及ぶ控訴人と被控訴人間の請負契約において、契約を成立させる際には、控訴人から注文書を発し、これに答えて被控訴人が請書を提出するという手続が、被控訴人側の要請もあって、履践されてきたのに、城之内工事にあっては、かかる注文書及び請書が作成されていないことも、前記認定を支えるものである。そして、次のような事実も右認定を覆えすに足るものではない。すなわち、(イ)《証拠省略》によれば、城之内工事については、控訴人と協立工業との間においても注文書、請書或は契約書の類いが作成されていないことが認められるが、《証拠省略》によれば、右両者のごとき比較的零細の業者間においては、書類を取り交すことなく工事を施工することが少くないことが窺われ、(ロ)新平田橋工事についての前認定(1の(二)の(3))と《証拠省略》によれば、同工事は、注文書が作成されないうちに昭和五〇年五月着工され、その後に注文書(同年六月一日付)が作成されたことが認められ、事情により、かように着工と文書の作成とが若干前後することがあることは、十分推量し得るところであるが、城之内工事にあっては、工事の着工から協立工業の倒産までの間に約一ヶ月半の期間があるから、単に文書の作成がおくれたに過ぎないと判断するのは困難である。

被控訴人は、控訴人と被控訴人間に請負契約が成立したことの根拠として、成立に争いのない甲第二号証の一ないし一二、ことに「三菱建設(株)城之内支払調書」と題する右甲第二号証の一を挙げる。その趣旨は、右両者間に請負契約が成立していたからこそ、右支払調書が、控訴人から被控訴人に交付されたと考えるべきで、請負契約の成立を間接に証明するものであるというのであるが、にわかに賛成することができない。その理由を以下に述べる。

(一) 《証拠省略》を総合すれば、昭和五一年四月五日協立工業が倒産するや、孫田は、坂本所長と右倒産に伴う新平田橋工事の事後処理について数回話し合い、その際、協立工業が施工した第二期工事までの出来高合計額、既払額、相殺されてしかるべき項目と金額を記載した「三菱建設(株)大林組平田橋支払調書」と題する書面を作成し、これを坂本所長に交付したこと、右は控訴人の正規の支払調書ではなく、右倒産に伴い発生してくる諸種の支払の現状と問題点を明らかにする目的で被控訴人に交付されたものであること、控訴人の正規の支払調書総括表は、昭和五二年一一月一五日作成され、請負代金が支払われ、金一五〇万円が未払となっていること、被控訴人主張の甲第二号証の一も右甲第一号証の一と同時に作成交付されたものであるが、それは、右倒産の事実を前にして、坂本所長が孫田に対し、もし城之内工事を被控訴人が仕切ってやったとしたら、どのような数字になるか、一度、新平田橋工事と同様の資料を作って欲しいといわれて作成したものであること、その中には、協立工業が施工した工事の出来高合計額、相殺処理を求める項目と金額が記載されていることが認められるから、右甲第二号証の一は、到底、被控訴人主張のごとき根拠となるものではないというべきである。ことに右甲第二号証の一の中に、相殺処理を求める項目及び金額として、前記労務賃金を表わす手形債務金三七〇万円及び前記機械使用料金三〇〇万円の記載があることに注意しなければならない。けだし、前認定及び《証拠省略》によれば、右機械使用料は、被控訴人が相殺勘定とすることを繰り延べるよう求めて遂に承諾していなかったものであり、右労務賃金も相殺勘定とすることを承諾しなかったものであるから、もし甲第二号証の一が、請負契約の存在を前提とし、その代金の支払の基礎にしたものであるとすれば、従来の経緯から被控訴人の承諾が得られていないことが分っているのに、右二項目を相殺されてしかるべきものとして記載したことになるが、かようなことは、通常考えられないことであり、この点について両名の間に事前に何らかの協議が行われたことを認めるに足る証拠はないのである。却って、原審証人孫田達雄が述べるように、控訴人は、もし被控訴人が、従来懸案となっていた右二項目の相殺を承諾するならば、被控訴人の前記申出を容れてもよいという趣旨で右記載をしたものと理解すれば、この間の説明ができるのである。

(二) 控訴人は、甲第二号証の一ないし一二に関する前記主張の論拠として甲第五号証の一ないし三を挙げるが、にわかに採用することができない。すなわち、(イ)第一回根来証言によれば、甲第五号証の三の支払状況欄の記載は、被控訴人が協立工業に対し、昭和五一年三月五日手形で金三〇〇万円を、現金で一〇万九〇〇〇円を各支払ったこと、その余は相殺処理をしたことを意味するというのであるが、《証拠省略》によれば、城之内工事についての控訴人とその下請業者との間の請負代金の支払条件は、毎月一〇日締め翌月一八日支払と定められていたこと、城之内工事の着工は、昭和五一年二月中旬であるから、右約定に従えば、第一回の支払は同年三月一〇日締め四月一八日支払となる筈であり、そうとすれば、被控訴人が協立工業に支払ったという右三月五日は、未だ出来高すら確定してないは時期であることが認められ、(ロ)又、右支払状況欄には、三月五日及び四月五日相殺の旨の記載があるが、《証拠省略》によれば、被控訴人は、城之内工事において相殺に供することができる支払をしていないこと、根来証人もいかなる支出をもって相殺に供したか具体的な項目を述べることができないことが認められ、かような事実から考えると、右支払及び相殺の事実は疑わしいといわざるを得ない。(ハ)そして、右甲第五号証の一ないし三が、被控訴人又は協立工業によって作成されたもので、控訴人は関与しておらず、控訴人において知らないものであった(《証拠省略》による。)ことを合わせ考えると、右書証から控訴人と被控訴人間の請負契約の存在を推認することは困難である。

(三) 被控訴人は、甲第九号証の一、二(各請求書)を提出し、控訴人に対し城之内工事の代金を請求した証拠であるという。しかし右甲第九号証の一においては、積算の基礎として、四〇メートルの杭を二四本打ったとしているが、《証拠省略》によれば、右工事においては四〇メートルの杭は一本も使用しておらず、すべて三八メートルの杭を使用したことが認められるから、右請求書は、正規に出来高を確認する手続を経たうえで作成されたものとは思われず、証人根来秀樹(第二回)も右未確認であることを認める趣旨の供述をしているし、本件記録によれば、控訴人は、本件訴訟の当初の段階から右請負契約の成立を争っていたにもかかわらず、右甲第九号証の一、二は、証人根来秀樹及び同孫田達雄の尋問を終えた後の原審第一一回口頭弁論期日にようやく提出されたものであることを考えると、右書証は、たやすく採用することができない。

5  右のとおりであるから、控訴人と被控訴人間に城之内工事の請負契約が成立したとする被控訴人の主張は肯認することができない。

三  相殺の抗弁について、

1  控訴人は、被控訴人に対し、控訴人の協立工業に対する前記機械使用料債権金三〇〇万円をもって、被控訴人に対する前記新平田橋工事の請負代金残債務金一五〇万円と対当額で相殺する旨の意思表示をしたと主張する。控訴人は、右意思表示を本件請負代金の精算に関する交渉の場で被控訴人に対し口頭でしたと主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。しかし、本件記録によれば、控訴人は、被控訴人に対し、昭和五五年五月二八日の原審第八回口頭弁論期日に右相殺の意思表示をしたことが認められる。

2  しかし、右相殺の意思表示は、その効果を生じないものというべきである。その理由は、次のとおりである。

控訴人が、被控訴人に対し、新平田橋工事の請負代金残債務金一五〇万円を負うことは前説示のとおりである。又、前認定(二の2)によれば、控訴人は、協立工業に対し、機械使用料債権金三〇〇万円を有するというべきである。しかし、民法第五〇五条第一項によれば、相殺が認められるためには、「二人互ニ」債務を負担すること、換言すれば、同一当事者間に債権の対立があることを要するところ、右機械使用料債権は、ひっきょう、控訴人の第三者に対する債権であって、被控訴人との間に債権の対立があるということはできない。

控訴人は、請負業者間では、右のような場合、請負代金と機械使用料とを相殺処理する取引上の慣行が存在するから、相殺の意思表示は有効であると主張する。《証拠省略》によれば、工事請負関係が甲から乙へ、乙から丙へ、丙から丁へというように順次下請けの関係にある場合、例えば、甲又は乙において、丁が工事現場で使用する燃料、材料などの代金を支払い、或は自ら残土処理、鉄筋加工などを行ってその費用を負担したときは、甲又は乙の請負代金支払に際し、右立替金等を相殺処理し、次いで乙又は丙の請負代金支払に際し、同様の処理をし、順次下流に及ぶことが通常行われていることが認められるが、右証拠によれば、右相殺処理は、連続した下請関係にある上位者の下位者に対する要求という実質を有するにせよ、あくまでも下位者の承諾に基づいてという形、換言すれば相殺の合意に基づいて行われていると認めるのが相当であって、もしこれが上位者の一方的な意思表示のみによって行われていると解すれば、右民法の規定に牴触するものであり、たとえかかる取引上の慣行があるとしても、公の秩序に反するものとして、肯認することはできないというべきである。

3  控訴人は、当審において、被控訴人が右機械使用料の支払義務を認め、工事代金と相殺されることを承諾したと主張するが、前述のとおり、被控訴人が相殺処理の繰延べを求めつつ経過し、ついにこれを承諾しなかったことは認められるものの、右主張事実を認めるに足る証拠はないのである。

四  和議認可決定が確定したとの抗弁について

1  昭和五五年一二月一九日控訴人主張の和議認可決定がされ、確定したことは、当事者間に争いがなく、右認可決定が昭和五六年一月一九日公告されたことは公知の事実であるから、《証拠省略》によれば、右認可決定は、昭和五六年二月二日の経過をもって確定したことが認められる。

2  和議認可決定が確定したときは、和議債権者と和議債務者との間に和議条件と同一内容の契約が成立したのと同様の法律効果を生ずるものと解すべきである。そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、前記新平田橋工事の請負代金元本残金一五〇万円の弁済として、それぞれ昭和五六年四月三〇日、同五八年二月三日、同五九年二月三日、同六〇年二月三日、同六一年二月三日限り金一二万円宛を支払う義務があり、その余の元本及びこの元本に対する免除までの損害金、右支払を猶予された元本に対する支払期限までの損害金は、何れも免除されたというべきである。

五  以上のとおりであるから、被控訴人の本訴請求は、右四の2のとおりの各金員の支払及び右各支払期限の翌日以降右各金員の支払ずみに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから(なお、将来の給付を訴求する利益があるものと認める。)、これを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。そこで右と異なる原判決中控訴人敗訴の部分を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条を、すでに支払期限の到来した金一二万円に関する認容部分の仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、その余の認容部分の仮執行の宣言は相当でないから附さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田洋一 裁判官 野崎幸雄 浅野正樹)

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